CAIV設立(2019年10月1日)から5年以上が経過し、この間に社会はパンデミックや地政学的リスク、気候変動などにより急速な変化を遂げました。ドローン分野も例外ではなく、技術的進展、運用体制、社会実装の各側面で大きな転換点を迎えています。国内のドローン産業は依然として多くの課題を抱えていますが、こうした逆境の時こそ、破壊的技術革新を通じた新たな産業構造の創出が強く求められています。
一方で、ドローン技術は社会の安全性・効率性・持続可能性を高めるうえで極めて重要な意義を有しており、近年では災害対応やインフラ点検、環境モニタリングなど、人の立ち入りが困難な環境において果たす役割が飛躍的に拡大しています。今後、これらの分野における技術革新と社会実装の加速は、我が国の産業競争力と社会のレジリエンス向上に直結すると考えられます。
CAIVでは、その中核理念である、
- バイオミメティクス — 生物の飛行戦略や構造に学び、自然と調和する飛行原理を追求する。
- 人工知能 — 自律性と柔軟性を両立する新しい知能アーキテクチャの構築。
- 人材育成 — 次世代モビリティ時代を担う創造的・統合的思考を備えた人材の育成。
の3つに基づき、日本の空の産業基盤を支える中核拠点として、学術・産業・行政の連携を通じた研究開発および人材育成を進めてまいります。今後は、国プロへの提案を通じた生物規範型知能ドローン技術の創出、産学共同研究による社会実装力の強化、寄付講座をベースとした継続的な人材育成を目指します。
インテリジェント飛行センター
センター長 鈴木智
また、CAIVでは、寄附講座を設け、研究教育活動を推進しています。この中で、博士後期課程の大学院生を対象とした「インテリジェント飛行プログラム」を実施し、ドローン分野の人材育成を図っています。対象となった学生には、学際的な研究力はもちろん俯瞰力、コミュニケーション能力、実践展開力などグローバルリーダーとして活躍できる資質を養えるよう、学生が主体的に学習するProject-based learning、海外研究機関における派遣研究、キャリアパスに合わせた研究戦略指導などの様々な教育カリキュラムを提供していく予定です。
この寄附講座の設立にあたっては、千葉大学名誉教授、一般社団法人先端ロボティクス財団野波健藏理事長より、「日本が激烈な国際競争の中にあるドローン産業で世界のトップレベルを維持するためには人材育成が不可欠で、日本の拠点として千葉大学に先進的なドローン研究センターができないか」とのお申し出を受け、先端ロボティクス財団(ARF)と東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)の皆様に並々ならぬご支援を頂きました。イノーベーション創出と人材育成という共通目的の実現にお力添えいただいておりますこと、改めて感謝申し上げます。また、今後この寄附講座をベースとして、次世代エアモビリティを一緒に目指して頂ける方が増えていくことを願っております。
私はこれまで千葉大学でドローンの研究を約20年近く行ってきまして、ドローン関連で博士13名、修士30名を輩出しました。2001年には日本で最初の小型無人ヘリの完全自律飛行にも成功しました。こうした研究成果をもとに、2013年11月に大学発ベンチャーの株式会社自律制御システム研究所を創業しました。創業から5年後の2018年12月、東証マザーズ市場にドローン業界では最初に上場を果たしました。 創業者の役得として得られた原資をもとに、知財やインキュベーション施設など有形・無形にお世話になった千葉大学に恩返しをしたいと思っておりました。
ドローン産業は目下、激烈な国際競争の真っただ中にあります。
日本がドローン産業で世界のトップレベルを維持するためには人材育成が不可欠で、日本の拠点として千葉大学に先進的なドローン研究センター的なものができないかと思案をしておりました。
会社経営を通じて痛切に感じたことは「モノづくり」は「人づくり」であるということで、優秀な人材が集まってはじめて世界と競争ができます。あるいは、千葉大から起業する若手人材の育成もできればと思います。ドローン研究は、専門分野としてはロボット工学、機械工学、電気電子工学、情報通信工学、航空工学などを背景として、ドローンの自律飛行制御などのコア技術、センサ、駆動系、バッテリなどハードウエアや、コンピュータソフトウエア技術、画像処理、人工知能、ビッグデータ、IoT、クラウド、高速通信など総合工学の研究領域です。
とくに、現在のドローンは平衡感覚と運動神経に優れた小脳型ドローンですが、近未来型ドローンは学習・知能・判断機能を有する大脳型ドローンが求められています。2019年3月で終了した、内閣府プロジェクトImPACTのタフ・ロボティクス・チャレンジ(飛行ロボット分科会座長:野波)で一緒に研究してきました、工学研究院 劉浩 教授とこの件についてご相談をしてきました。さらに、2018年12月末には関 研究担当理事ともご相談をさせて頂きました。その後、大学サイドで準備を重ねて頂きまして、2019年10月にインテリジェント飛行センターオープンとなりました。
2030年頃の「空の産業革命」、「空の移動革命」を見据えて、インテリジェント飛行センターへの期待は、鳥のように知能を持ったドローンや環境に優しい静かなドローン、パイロットレスの垂直離着陸型乗客用ドローン、何百機も編隊を組んで整然と飛行する群ドローン等、SFの世界が現実となるようなワクワク感のある最先端の研究でイノベーションを創出することです。
そして、学際的総合工学としての教育プログラムで、世界トップレベルの人材育成を願っています。このために、微力ながら先端ロボティクス財団は尽力させて頂きます。最後に、インテリジェント飛行センター開設までのご尽力に際して、関 研究担当理事、佐藤 工学研究院長、劉 教授に心からお礼申し上げます。また、財団の寄附にあたり、寄附のご賛同を頂きました東京大学エッジキャピタル(UTEC)郷治代表取締役社長に御礼申し上げます。