近年、 ドローンは急速に社会に浸透し、空撮・農業・構造物点検・測量・防災といった様々な分野において利用が拡大しています。しかしながら、ドローンの利用範囲が拡大するにつれて、現状のドローンでは飛行困難な環境や、1機のドローンでは遂行が難しいタスクなど、その弱点も次々に明らかになっています。

当研究室では、ドローンの社会実装の妨げとなるこうした弱点の克服を目指し、制御工学・ロボティクスの観点から研究を行っています。

例えば、「6自由度独立制御可能な非平面型ドローン」の研究では、従来のドローンでは不可能な卓越した運動能力を実現するために、6発のロータそれぞれを傾けた非平面型ドローンを開発しました。この機体に対して適切な制御システムを適用することによって、並進運動と回転運動の独立制御が可能になるだけではなく、従来のドローンを大きく凌駕する高精度の飛行を実現できます。この研究は企業との共同研究により実施しており、強い風外乱下で精密な飛行が求められる大規模構造物の点検業務等に利用される予定です。また、この研究を発展させることで個々のミッションに適した卓越した運動性能を有するドローンの設計理論を構築することも可能となります。
図1:並進運動と回転運動の独立制御を実現した、非平面型ドローン。 
また、「小型ドローンの協調飛行制御」に関する研究では、重量200g以下の小型ドローンが複数協調して1つのミッションを実現するシステムの実現を目指しています。近年、ドローンを高所だけでなく、床下や天井裏、配管内部といった狭隘部の点検に利用することが求められています。狭隘部の点検に用いるドローンは小型である必要がありますが、搭載重量や飛行時間が厳しく制限されるため、小型ドローンに対して点検に要するセンサ類を全て搭載して運用することは困難です。

そこで、可視光カメラ、赤外カメラ、超音波センサをはじめとした各種センサをそれぞれ搭載した複数のドローンが狭隘空間を協調的に飛行することで効率的な点検を実現できます。さらに、実時間最適制御の1種である「モデル予測制御」を適用することで、狭隘部での協調飛行の際に問題となる「衝突」を回避する飛行制御システムの実現に成功しました。

以上に示したような研究を通して、様々な環境やミッションに対してタフなドローンを実現し、ドローンの社会実装をさらに推し進めることを目指しています。最終的には、ドローンが人間社会に大きな利益をもたらすと同時に、有事の際には人を護り・助ける存在となりうるように日々研究を推進しています。
Profile
鈴木 智(すずき・さとし)
2008年千葉大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。その後2009年より信州大学助教、 2014年より同准教授。2019年4月より現職。小型無人航空機を中心として、制御工学、ロボティクスに関する研究を専門とする。