国土の69%が森林に覆われている日本では、戦後に人工林が各地に造林されました。現在その約半数が樹齢50年を超え、伐採・利用期を迎えています。一方で、林業従事者は林業の重労働や過疎化・少子高齢化の進行に伴って深刻な担い手不足に直面し、平均年齢は70歳。林業の持続可能性は危機的状況にあります。このため、近年、IoTやICT技術を導入することで、業務の効率化を図る技術革新「スマート林業」が推進されています。

伐採時期を迎えた林材を伐採して流通させるには、伐採のための作業量の見積や材の販売量を推定するため、木の本数・高さ・太さなどの対象林の資源量を事前に把握する作業が欠かせません。しかし、人手による計測では費用と正確性に課題が残ります。そのため、安価で簡便に、広範囲の森林資源量を正確かつ効率的に計測する手法が必要になります。ドローンの導入による林業のスマート化は、8割以上の省力化と、売り上げの倍増が期待され、林業の持続可能性に大きく寄与できます。スマート林業にとって、ドローンによる計測技術開発は重要なテーマなのです。

我々の研究チームでは長年、レーザーを用いた樹木の3次元構造の把握に関する技術開発に取り組んできました。近年、レーザーから得られる3次元データを独自のアルゴリズムで解析することで、樹木の計測誤差5%以内で解析できる技術を世界で初めて確立しました。この技術では、ニューラルネットワークの手法を応用することによって、誤差5%以内での計測を可能にしました。また、多時期で取得される3次元データを自動で解析する手法も確立しており、この手法を使って、今後高頻度で取得できるようになる3次元データの自動時系列解析にも取り組んでいます。さらに、UAVレーザーを開発する企業とも国際共同研究を進めており、これからのドローンの役割を広げるため、ソフト面での研究開発を進めています。
図1:樹冠構造把握のためのラッピング法により、レーザから得られた3次元データの解析が可能。Kato et al., (2009) 参照。 
例えば、開発した計測誤差が低いデータ解析技術を用いて、成長が遅い樹木の成長量を詳細に把握し、早期の林業支援の実現を目指しています。

ドローンの機能は近年劇的に改善され、飛行も安定していますが、農林業現場でできることはまだまだ多くはありません。当研究室では、ドローンを製作できる研究者と緊密に連携しながら、森林調査で必要な解析技術の開発に取り組むとともに、自由な発想で30年後の未来に向けた研究開発を進めています。

Reference
  • Capturing Tree Crown Formation through Implicit Surface Reconstruction using AirborneLidar Data, Kato, A., Moskal, L.M., Schiess, P., Swanson, M.E., Calhoun, D., and Stuetzle, W.,Remote Sensing of Environment113, pp. 1148-1162, 2009
    DOI: 10.1016/j.rse.2009.02.010
Profile
加藤 顕(かとう・あきら)
ワシントン大学大学院森林資源学部より2008年に博士号取得後、2009年より千葉大学 園芸学研究科に就く。高解像3次元レーザーを用いて詳細に植物構造を把握することが専門である。最近では自然災害(森林火災等)での3次元データ利用に関する研究を行っており、自然が災害を受け入れる生態的プロセスの研究にも携わっている。