ロボットが求められている産業界で、視覚情報にロボットが素早く反応できるようになるには、多くの課題が残されています。こうした課題の解決に利用できる一つの技術として、「高速ビジョン」があります。高速ビジョンとは、画像センサによる画像取得から画像処理、画像認識までを高速度で行うことができる統合システムを指します。記録用高速度カメラとは異なり、リアルタイムかつオンラインで画像処理結果を出力することができます。

この高速ビジョンをロボットの眼として導入することで、ロボットの性能を飛躍的に向上させることができます。具体的には、次のような利点があります。
  • 人間の眼には見えないような高速動作でもロボットが計測できる。
  • ロボットの視覚刺激に対する反応速度を高めることができる。
  • フレーム間の画像の変化が微小になるため、画像処理自体を簡略化できる。
現在、我々の研究室では、様々なロボットへの高速ビジョンの適用を進めています。「高速ターゲットトラッキング」の研究では、単眼高速ビジョンによる3次元位置姿勢推定アルゴリズムを開発しました。対象の輪郭情報とテクスチャ情報に基づく評価関数をリアルタイムで最適化することにより、対象の位置や姿勢を推定します。このアルゴリズムを用いることで、高速に移動する3次元対象の追跡が可能になりました[1]。

また、高速ビジョンを用いた「ロボットマニピュレーション」の研究では、ステレオ高速ビジョンと2台の高速ハンドアームを用いてボールジャグリングを実現しました。効率的な投げ上げ軌道生成と高速視覚フィードバックによる高精度キャッチングにより、3つのボールを双腕でジャグリングできるようになりました(図1)[2]。

さらに、「高速視覚サーボによるドローンの飛行制御」の研究では、鳥のように俊敏な自律飛行ができる飛行ロボットを目指して、ドローンに高速ビジョンを搭載しました。視覚サーボとは、視覚の情報処理と機体の制御系を結合する理論的枠組みのことで、安定した制御を行う要になります。高速単眼カメラと画像処理用並列プロセッシングユニットを用いて、約350 Hzの視覚フィードバック制御を行い、移動ターゲットの追跡飛行を実現しました[3]。
図1:ボールジャグリングをするロボット。ステレオ高速ビジョンと高速ハンドアームで3つのボールをジャグリングできる。 
このように、高速ビジョンによって、これまでのロボットには難しかった対象の追跡が可能になり、ロボットの制御自体も簡略なシステムで実現できるようになりつつあります。今後は、ドローンのための高速視覚処理技術の開発を進め、より応用範囲の広い飛行制御システムの創生を目指していきます。

Reference
  • Yang Liu, Pansiyu Sun, and Akio Namiki, Target Tracking of Moving and Rotating Object by High-Speed Monocular Active Vision, IEEE Sensors Journal, 20(12), pp.6727-6744, 2020,
    DOI: 10.1109/JSEN.2020.2976202
  • 並木明夫. ジャグリングロボットとエアホッケーロボット. 日本ロボット学会誌. 38(4), pp.307-12, 2020,
    DOI: 10.7210/jrsj.38.307
  • Hsiu-Min Chuang, Dongqing He, and Akio Namiki, Autonomous Target Tracking of UAV Using High-Speed Visual Feedback, Applied Sciences, 9(21), 4552, 2019,
    DOI: 10.3390/app9214552
Profile
並木明夫(なみき・あきお)
1999年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)、2004年東京大学大学院情報理工学系研究科講師、2008年より千葉大学准教授。ロボティクスを専門とする。