2022.11.1 ドローンのためのバイオミメティクス 最新動向を解説
ドローンの活用は、過去10年間で様々な産業で急激に増加していますが、安全性、耐久性、飛行性能、環境への影響などの面で課題を抱えています。こうした課題を解決しようと、バイオミメティクスの手法を活かした研究開発が進んでいます。今回、CAIVのメンバーは、これらの研究の最新の動向について解説論文をまとめ、飛行安定性、飛行効率、衝突回避、損傷緩和、飛行中の把持などの目的に応じて、有望な設計や追加機能が提供されている状況を示しました。さらに今後の課題として、希少野生生物や渡り鳥の生息地の認識、生分解可能な材料の検討、生物や環境のモニタリング技術の開発など、生物多様性の保全を第一条件とした技術開発のロードマップを作成することの必要性を強調しました。この成果は専門ジャーナル「Drones」にて、2022年10月26日に公開されました。
研究の背景
ドローンとして知られる小型無人航空機(SUAV)の歴史は、飛翔生物がどのように空を飛んでいるのかという人間の好奇心にまでさかのぼることができます。1503年、イタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチは、鳥の羽ばたきのメカニズムに基づき、回転翼を作るという斬新なアイデアをスケッチに残しました。日本では、1825年頃、鍛冶屋で発明家でもあった国友一貫斎が、羽ばたき翼の設計図を作成し、ヒヨドリの翼、尾、胴の形状と重量を測定し上で、人体との重量比から機体の長さを導き出しました。これらは、「バイオミメティクス」の先駆的な取り組みと言えます。
「バイオミメティクス」という言葉は、1957年にアメリカの神経生理学者オットー・シュミットが、神経系の信号処理を模倣した電気回路「シュミットトリガー」を発明した際に最初に使われました。ISOの現在の定義によると、バイオミメティクスは「生物システムの機能解析や、それらのモデルへの抽象化、解決のためのモデルへの適用と移転を通じて、実用的な問題を解決することを目指した、生物学とテクノロジー、その他の革新的分野との学際的な協力(interdisciplinary cooperation of biology and technology or other fields of innovation with the goal of solving practical problems through the function analysis of biological systems, their abstraction into models, and the transfer into and application of these models to the solution)」とされています。近年、様々な分野の研究者がバイオミメティクスをテーマにしており、生物の生存戦略から学ぶことによって持続的な技術革新をもたらすことが期待されています。
「バイオミメティクス」という言葉は、1957年にアメリカの神経生理学者オットー・シュミットが、神経系の信号処理を模倣した電気回路「シュミットトリガー」を発明した際に最初に使われました。ISOの現在の定義によると、バイオミメティクスは「生物システムの機能解析や、それらのモデルへの抽象化、解決のためのモデルへの適用と移転を通じて、実用的な問題を解決することを目指した、生物学とテクノロジー、その他の革新的分野との学際的な協力(interdisciplinary cooperation of biology and technology or other fields of innovation with the goal of solving practical problems through the function analysis of biological systems, their abstraction into models, and the transfer into and application of these models to the solution)」とされています。近年、様々な分野の研究者がバイオミメティクスをテーマにしており、生物の生存戦略から学ぶことによって持続的な技術革新をもたらすことが期待されています。
研究成果
今回研究チームは、現在のドローンが直面している課題、すなわち、飛行安定性、飛行効率、衝突回避、損傷緩和、飛行中の把持に基づいて、バイオミメティクスを活用した研究を調査しました。その結果、従来のドローンを超える性能を実現するための様々な有望な設計や追加機能が提供され、小型化の流れがさらに加速していることがわかりました。また、これらのバイオミメティック・ドローンの研究開発には、(1)革新的なデザイン、(2)飛行制御技術、(3)生物多様性保全の面で、次のような将来的課題があることもわかりました。- (1)現在の研究の多くが、鳥や昆虫の形態や機能の一部を抽出し、その特徴を再現してドローン機構に搭載するというアプローチをとっていることから、飛翔生物のように統合された機械システムを実現するためには、さらなる工夫が必要です。昆虫に着想を得た人工知能、オープンサイエンス、バイオハイブリッドなどの新しい研究分野の成果を取り込み、理想的なモデル動物の機能を検討することで、より良いデザインの実現が期待されます。
- (2)既存研究では、構造開発と動的解析にのみ焦点が絞られていることから、精密マニピュレータや俊敏な移動ロボットなど、他のロボット技術の制御レベルにはまだ及んでいません。機械学習や深層学習の制御アルゴリズムを活用しながら、既存のバイオミメティックドローンのアイデアや設計を統合して、理想的な制御技術を開発することが期待されます。
- (3)ドローンの飛行空域は高度1km以下で鳥や昆虫の生息域と重なり、騒音や光、電磁波が生態系全体に干渉する可能性があることがわかっています。人間が生活や文化を維持するためにも生物多様性保全は不可欠であるため、希少野生生物や渡り鳥の生息地の認識、生分解可能な材料の検討、生物や環境のモニタリング技術の開発など、生物多様性の保全を第一条件とした技術開発のロードマップを作成することが必要です。
今後の展望
本論文の責任著者の一人である田中特任研究員は次のように述べています。 「バイオミメティクスは、産業界からも期待が高い研究分野です。学術界で蓄積されてきた新規性のあるアイディアを実用に耐えうるドローンの機体へ統合していく時期にきています。空域の本格的な産業活用を前に、今回、生物多様性の保全をドローンの設計理念の第一基準とする必要性を提示しました。ドローンと空域を共にするツバメなどの渡り鳥は、日本だけでなく東南アジアの生態系ともつながっていることから、今後の政策立案の過程でも参考になることを願っています」また、もう一人の責任著者の劉教授(CAIVセンター長)は次のように述べています。「航空機の技術史やISOのバイオミメティクスの定義などを踏まえ、これまでにない着眼点での解説論文が出版され、とても嬉しく思っています。千葉大学では、鳥や昆虫などに見られる巧な飛行のあり方を長年研究してきた蓄積があります。科学的蓄積をドローン技術に組み込み、持続可能な開発を推し進めるためにも、今回の解説で示された課題と展望は貴重な指針になるはずです」
謝辞
本研究は、先端ロボティクス財団、東京大学エッジキャピタルパートナーズからのご支援により実現しました。また、本論で取り上げた国友一貫斎の歴史書に関する記述は、長浜城歴史博物館の太田浩司氏と岡本千秋氏にご助言いただきました。ドローンの技術開発の文脈で国友一貫斎の功績を示したのは世界的にも初めてのことです。関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
論文情報
Review of Biomimetic Approaches for Drones,Saori Tanaka*, Abner Asignacion, Toshiyuki Nakata, Satoshi Suzuki and Hao Liu* Drones 2022, 6(11), 320 DOI: https://doi.org/10.3390/drones6110320
お問い合わせ
広報担当:田中email: saori.tanaka@chiba-u.jp